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倫理問題カンファレンス [カンファレンス]

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意志決定能力のない患者の生死にまつわるような問題の決定には基本的に近しいご家族との話合いで決めています。

たいていの場合ご家族ははっきりとした決定は出来ず、医師はご家族やご本人の“気持ち”や“哲学”を察しながら意志決定を促していくことになります。ですから患者さんご自身が意志決定能力がなく、ご家族のその能力がないときに我々は大変悩むことになります。

逆を言えば、今まで患者さんやご家族の未来によかれと思いつつも、その責任をどこかで患者サイドに委ねていたことの表れかもしれません。

しかし、我々も人間であり、ヒトの命の存続不存続を決定するなどおこがましいと思います。

で、だからといって胃瘻に代表されるような、延命(的)な処置を短絡的におこなうことが、本当に患者サイドの“幸せ”を実現しているとはとても思えないのです。

 

もちろんご家族の権限がどこまであるかという問題あるのですが、今回はご家族いらっしゃるのだけど連絡がとれず、そのため後見人がはっきり決まっていないとう事例について考え、話し合う機会をもちました。

出席者は 医師 他院医師 看護師 リハビリテーション科 MSW 医局秘書

できる限り、医療者の考えに染まっていないヒトにも参加していただきました。

 

具体的な事例についての記載は控えますが、

これらの考えは、虐待 治験 移植 尊厳死 などの問題とも絡んできます。

 

まず法的にはどうか?

緊急回避についてはリスボン宣言で、これは全力を尽くすべきとあります。

また後見人は現在のところ医療に関しての決定権はなく、実は医療に関する決定権があるのはご本人だけで、ご家族にもそれはないのです。

それではご本人に決定能力がないときにどうするかと言えば、

1)ご本人が決定権があるときに記した意思表示に従う。

2)ご本人ならこう考えるだろうと推測し、その考えに従う。

3)家族や医療者がご本人の最大利益になるように考える、

と3つの方法に分けて考えると少しだけ明瞭になってきます。これらはそれぞれ、

1)事前指示(advanceddirectives)2)代理判断(substituted judgments 3)最大利益基準(best interest standard)と呼ばれるそうです。

どうも我々医療者はどこか医療の世界に閉じこもっているがゆえ、そして過酷な労働、患者のゆくすえをみるうちに少しずつ考え方がいわゆる“フツ−”の人から離れて言ってしまう傾向があります。なので、今回は出来るだけ医療者の密度を薄くしてCo-Medicalの方を多めに招きました。

コミュニケーションはほとんどとれず、寝たきりで、食事がとれない。身よりもいない。という人に胃瘻を作るか?決定は上記の3)にしたがって、我々が決めるしかないということでしょうか?

胃瘻を作らないということはこの場合死を意味します。

そのような決断を本当に我々が決めてよいのかという疑問にさいなまれながらも、誰かが決めないと不幸になる人がいるという責任。他に決めるシステムがないのなら、今一番近くにいる我々が決めるしかないというのが今の結論です。

ただ、後見人が医療的な決断をある程度追うべきであるという意見も少数ながらあるようです。

 

胃瘻反対意見

今後胃瘻で生きていき、ご本人も含めて幸せになる人がいるのだろうか?どこかで死を迎えさせてあげることも我々の仕事ではないのだろうか?家族がいるにはいる。のであれば後から出てきて訴えられるということもあり得るのではないだろうか?

では点滴を止めるのかそれとも量を少なくして流すのか?という論議もありました。

胃瘻をつくらないという覚悟は看取ってあげるという覚悟であり、少し点滴を流すというのは単なる罪滅ぼしではないか。覚悟に逃げがあるのでは?という意見。気持ち的に受け入れられない部分がまだ医療者にもあり、せめて点滴だけでもというのはいけないことなのか?

看護師の点滴のテクニックで最期が決まるという終わり方でよいのだろうか?看護師へのプレッシャーもとても強いものになる。

それも出会い。という意見もあった。

胃瘻賛成意見

栄養をもう少し入れてあげればもう少し元気になるかもしれない。長い間一緒にいると情がわいてきて、とてもこのまま看取るということは感情的に受け入れられない。

この方の将来の事を考え、社会的、経済的に胃瘻をつくることが本当によいのか考えるべきでは?

 

議論は平行線でした。その理由として患者の人生までしょって考えるか?もしくは自分たちにかかる責任の重さなど背景に大きな違いがあることも関与してると思われました。実際には同じ土俵で話していたのではないのかもしれません。

結局結論が出ないのでご本人にみんなで会いに行くことになり、そのとき初めてというほど患者さんの反応がよかったのです。

よって結局みんな“感情”に流された形で胃瘻を作ろうという話になりました。

大切なことは胃瘻を作ることも作らないことも、安易もしくは短絡的に考えず、慎重に検討すること、Co Medicalを含め多くの関わる人でシェアすること。というのがわたしの最終的?な結論です。


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コメント 3

ゆうちゃんママ

私たちの知らないところでたくさんの苦悩や葛藤があるのですね
真剣に考えていただけている、その事実だけで意識は無いかもしれませんが、その患者さんは幸せだと思います
医療が進歩したことで選択肢が増えるということが反対にそのような苦しみを増やす事にもなるケースがあるのですね

私の祖母は90歳の時、心臓にペースメーカーを入れる手術をしました
その時、本人はあまり気が進まなかった様ですが、家族に背中を押されて手術に踏み切りました
介護の生活が始まったのはそれがきっかけでした

術後の経過が思わしくなく、ペースメーカーを入れる場所を変えたりして何度か手術をしました

体力を失い、それでも頑張ろうとする意志とは裏腹に入院生活となってしまいました

最終的には介護老人ホームで意識もはっきりしないままの状態が長く続き、みんな最期の時をただ待っている状態でした

場所が遠かったので、頻繁にお見舞いに行く事はできませんでしたが、入院している祖母の姿を見たとき、正直、
これは生きている、といえるのだろうか
と思いました

生きるとは何だろうか

という問いにぶつかります

人それぞれの答えがあると思います
100人いれば100通りあると思います
答えを見つけるのは自分自身だと思います
人に示す事では無いと思います

では意識のない人はどうなるのか?

ということになります

あくまでも主観的な意見ですが、
もし、自分の身内にそういう事態が起こったとき、胃瘻という処置の選択肢自体を教えて欲しくないです
意識が戻る見込みが皆無に等しいなら、本人の意識がないままに体の機能だけ動かすなんて、本人も家族もただつらい気持ちを受け入れたくないだけのような気がして…

訴訟って、何のために起こすんでしょう?

私は、

お金がほしいから

これに尽きると思います

お金は天下のまわりもの

です

必要なときに必要なだけ自分のところにまわってくるものだという考えです

何年か前に一緒にお仕事をさせていただいた方がこんなことを言ってました

人を思いやる気持ちがみんなにあれば、法律なんかいらない

私はその通りだと思います

極端な話、たとえお医者さんが間違った判断をして患者さんが亡くなってしまったということがあっても
その方が必死で救おうとした、("救う"の定義も難しいですね 延命をしない決断ということも含むのかな…)

その事実があれば、それを患者の家族が感じることができるなら訴訟を起こすことは少ないのかなぁと思うのはあまりに楽天的でしょうか

子どもを二人育てている真っ最中ですが、子どもたちにはこの
人を思いやる気持ちを一番に育てていこうと日々奮闘中です






by ゆうちゃんママ (2012-02-15 05:35) 

t_matsu

”子どもたちにはこの人を思いやる気持ちを一番に育てていこうと日々奮闘中です”この言葉に感動を覚えました。100通りの、、とおっしゃいましたが、何百人も見送っている僕たちと、たった一人の身内、この歴然とした経験の差が時に障壁となります。僕たちは逆にたった一つの命の重さを忘れないように努力しないといけないのかもしれません。一生懸命考えること、これしか僕らにはできません。

by t_matsu (2012-02-15 20:24) 

NO NAME

お忙しい中、わざわざご回答下さいましてありがとうございます
"一生懸命考えること"
患者としてとても嬉しいです

実は、私の息子たちがお世話になって以来、湘南厚木病院の大ファンなんですよ(^^)
本当にいろいろ考えて下さっているのがすごく伝わってきます
身近に安心して通える病院があるというのは、とても幸せなことです

以前息子が通っていたところは遠い上に機械的な対応だったし、必要もない検査のために入院させられそうになったり、
弱音を言ってしまったときには
"そんなことしてたら、手術しなきゃいけなくなりますよ"
なんて言われて…
こんなの脅しだ~
なんて内心思ってました
全く信頼していなかったです

そんな私の気持ちをいい意味で何度も裏切られてしまいました
これからもよろしくお願いしますm(_ _)m









by NO NAME (2012-02-16 05:03) 

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